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051-060

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051「たった一つの冴えたやり方」

ジェイムズ・ティプトリ−・ジュニア/ハヤカワ文庫SF

 誕生日祝いにスペースクーペを買ってもらった、おてんば娘コーティーは、さっそく船に改造をほどこし星空の冒険へと旅立った。
 しかし、彼女が冷凍睡眠から目覚めてみると、なんと頭の中にイーアという未知の生物が棲みついていた!

 持ち前の明るさで、すっかりイーアと意気投合した彼女だったが、やがて2人はとんでもない事件に巻き込まれ、窮地に追い込まれる。

 2人の選んだ「たったひとつの冴えたやりかた」とは……。
 表題作他2編。

 YESか、NOか。
 右へ行くか、左へ行くか。
 些細な事柄から、人生を左右するようなものまで、たくさんの選択が複雑にからまりあって、毎日は過ぎていきます。

 正しいのか、間違っているのか。わからないけれど、選ばなくてはいけない……そんな時に、どうやって選択する勇気を持てばいいのか。本書に収められた3編からは、共通してそんな「選択」と「選ぶ勇気」が感じられました。

 そして選択とは「結果」だけでなく、選択に至った「経緯(プロセス)」もまた重要。むしろ、人の成長はその「過程」にこそあると思います。

 また「選択しない」という事も選択の一つです。それは単に「逃げる」ということではありません。一般的に、人は目の前に提示された「選択肢」を疑わない傾向にあります。ですが、はたして私たちは「自分の意志」で「選択」しているでしょうか?
 他にも選択肢はあるのかもしれません。

 主人公たちの勇気ある選択に、選択することの勇気と困難さを感じた物語でした。

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052「ターン」

北村薫/新潮社

 事故に巻き込まれた真希が目を覚ますと、そこは「昨日」だった。
 そこは、人も動物も、そして虫さえもいない、静寂の世界。

 「昨日」が終わると、また「昨日」がはじまる。
 時間がくると、また巻き戻されてしまう。
 永遠の「昨日」に取り残された真希。

 唯一の頼りは、決まった時間にどこかからかかってくる電話だけ。
 そして、その電話の声は、どこか聞き覚えがあったのだった。

 明日は必ずやってくる?
 なんだか哲学的な問いかけですが、実は必ずやってくる保証はないのかもしれません。確かに普通はやってくると信じているし、そもそもそんな事さえ疑いもしません。眠れば、朝がくるはずです。

 この物語の主人公の真希は、なぜか繰り返される「昨日」に閉じ込められてしまいます。物を壊しても、作っても、ある決まった時間が訪れると、全てがまた元に戻ってしまう無人の世界。孤独の寂しさと恐怖と、そして明日がこない、つまり未来のない世界への絶望。

 その絶望は、時が流れている現実の世界にも漂っているような気がします。

 単なる今日の連続としての明日。
 それは時間的には未来であるという、消極的な未来。
 そして、ただ流れていく時間に、とり残されている感覚。
 未来に絶望さえ抱かせない無力感。

 はたして、真希が「昨日」の世界で見つけたものとはなんだったのか。
 それこそが、私たちをそうした無力感から抜け出させるものであり、いつしか忘れてしまっていたものでした。

 自分の「明日」は、とっても「個人的」なもの。
 だからこそ、真希が見つけだしたものを自分たちも見つけださなければ、永遠に「明日」はやってこない、そんな気がしました。

 終わりない日常から抜け出すための、勇気の物語。

※本書は「スキップ」「ターン」「リセット」と続く北村薫氏の≪時と人≫の三部作の二作目。他の二作もオススメ。

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053「シティ」

谷村志穂/集英社文庫

 男が道端で拾ったのは、図書館の貸し出しカード。記してあったタダミフミカという名前と、一緒にあった本のメモから、男は一人の少女に想像をふくらませていくが……。男と少女のつかのまのふれあいを描く「図書館は遠い」。

 球場ではじまった恋と、球場で終わった恋……「神宮で始まる空の高い夏」。

 学校でいつも貧血で倒れる少年は、バスの車内で倒れた少女えりかを助ける。そして、なぜか祖母を親戚の家へ送る旅に、彼女を一緒に連れて行くことになってしまって……「僕は学校へ行く」

 都会のあちこちで、すれ違うかのように出会っては別れていく人々を描いた10の物語。

 その人の一生から見れば、ほんの一瞬の出逢いと別れであっても、大きな何かを残すことがあります。この作品は、そんな出逢い(と別れ)から生まれるドラマを描いた短編集。

 ただこの作品で描かれる出逢いは、どれもがさらっとした描かれ方をしています。それは俗に言われる都会の冷たさではなく、各々の事情を必死に生きているからこそ、感傷の余地さえないから、なのかもしれません。

 出会いは、変化。
 そして、それは現状からの救い……なのでしょうか。
 ほんのわずかな出逢いでさえ、大切にしたいと思わせる作品。

 ※単行本「少年の憂うつ、少女の微熱」を文庫化にあたり改題。

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054「螺旋階段のアリス」

加納朋子/文藝春秋

 脱サラをして、念願の私立探偵になった中年男、仁木。そしてある日、突然事務所にあらわれて押しかけ助手になった美少女、安梨沙。
 探偵も探偵なら依頼人も依頼人。
 探偵事務所には、とんでもない依頼がつぎつぎと舞い込んでくる。

 整理整頓好きの主婦が、どうしても見つけられない亡夫が隠した鍵。
 地下倉庫でなり続ける不思議な電話のベル。
 自分の浮気調査を依頼しに来た女性。
 それでも二人は、そんな手ごわい依頼を見事に?解決していくのだったが……。

 人の心に隠された「謎」を、不思議の国のアリスの登場人物になぞらえて語られる不思議で優しく、ちょっと切ない七つの物語。
 
 加納朋子さんのつむぎだす謎は、優しい。それは、描かれる世界への視線が優しさに満ちあふれているからでしょう。

 だけど優しいだけでもない。
 へんてこな事件の数々は、不思議の国のアリスのストーリーにシンクロし、人間の可愛らしさと同時にいやらしさやおろかさをも描き出しています。

 それでも読後に感じるさわやかさは、優しい視線で、真正面から人間のおろかさや醜さを見つめているからでしょうか。

 人の心に隠された、不思議の国の謎物語。

 ※続編「虹の家のアリス」 

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055「十四歳漂流」

薄井ゆうじ/集英社ちくま文庫

 子どもの数がめっきり減った未来。朝ご飯から、歩くスピードまで監視され、出生数を下げないため、異性から告白されたら断れない規則まである管理社会。ある日、隆史は突然バスで声をかけられた見知らぬ少女に「告白」されてしまうのだが……。[初恋監視センター]

 誰も教えてはくれないが、生首を売るという仕事があるのだという。そしてそれは14歳から2年間だけ許されている。はたして首売りとはなんなのか。少年は首市場へと向かった。[首市場]

 月夜の晩、平和な牧場にあらわれた少年兵は、そこに住む少女に、見えない敵と戦っているのだと語るのだったが……。[月夜の少年兵]

 他9篇。

 本書は、14歳という成長過程の、それもひどく中途半端な時期の少年少女たちを主人公にし、その年代が直面するであろう様々な事柄を、寓話的世界で表現した短編集です。

 この物語の少年少女たちは、およそ理不尽な世界で、何かと戦っています。何かとは、いったい何なのでしょう。それは戦っている本人にさえわからないのです。

 自分が14歳の時、何を考えていたか。まったく思い出せないし、おそらくろくに何も考えていなかったように思えます。しかしこの物語は、こうやって14歳をふりかえらせるものではなく、いつしか読者が14歳になってしまうような、不思議な物語でした。

 14歳になって、へんてこりんな世界観、寓話世界で、理不尽さを感じるのが、この物語の楽しみ方かもしれません。

 でもやっぱり14歳の時、読んでみたかった物語。

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056「檸檬のころ」

豊島ミホ/幻冬舎文庫

 いつ頃からか保健室登校をするようになった友達との、ぎこちない関係。それは、私が男子から告白されたことで、しずかに動き出す――「たんぽぽのわたげみたいだね」

 音楽にすべてを捧げると誓って、集団の輪から外れた場所でいつもイヤホンをつけている女の子は、軽音部の少年と音楽の話で意気投合して――「ラブソング」

 一緒にいながらも、お互い好きだと言わないまま同じ高校へ進学した2人。なんとなく疎遠になり、今では同じ野球部の友人が、その彼女へ思いを寄せている。そして高3の夏、最後の大会が近づいていた。――「ルパンとレモン」

 卒業、そして進学、上京。お互いに好きの気持ちを残したまま、2人は残りの時間を大切に過ごしていく。東京へ行きたいと願う少女の決意と、その気持ちに応える少年の決意は――「雪の降る町、春に散る花」

 高校生の恋や友情というと、どこか華やかで激しい物語として描かれることが多い、そんな気がします。

 ですが本書では、日陰に咲く小さい花を愛でるような、目立たない場所にいる少年少女たちを主人公に、彼らの恋や友情や葛藤が、淡く優しく、よりそうような視点で描かれます。

 駅前に、小さなショッピングセンターがぽつんと建っていて、でもそこが唯一の遊び場――そんな田舎の町を舞台にした、全7編。最初から読んでいくと、別の短編で後日が描かれていたりと、オムニバス的な楽しみ方もできる、短編集です。

 いつまでも忘れられない、ささやかな一瞬が詰まった1冊。

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057 「木曜組曲

恩田陸/徳間文庫

 女流作家の大家、重松時子が薬物死を遂げてから4年。今年も時子をしのぶ為の宴が、彼女の住んでいた「うぐいす館」で催された。

 集まったのは、時子に縁のある女性ばかりが5人。ノンフィクションライター、少女小説作家、純文学作家、編集者、出版プロダクション社長。

 それは気の置けない仲間達と過ごす、年に一度の宴のはずだったが、差出人不明のメッセージをきっかけに、重松時子にまつわる様々な事実が浮かび上がり、空気はどんどん張り詰めていく。

 はたして、重松時子は自殺だったのか、それとも他殺か。5人の女性が繰り広げる心理戦の末に、浮かび上がった真実。

 無人島や、雪に閉ざされたロッジなど、密室状態での物語というのは、ホラーや推理小説はおなじみの舞台です。

 本書では、ある作家の家を舞台に、個人の死の真相をたどっていく一夜の話ですが、よくある探偵物と違って明確な探偵役が不在な為、5人がそれぞれ好き放題に推理を展開させていきます。

 そして、お互いに腹を探りあい、さりげなく誘導尋問を投げかけたりみたりして、心理的な駆け引きによって、次第に知らなかった過去が明らかになりっていきます。

 5人とも文筆に関わる仕事をしていて、性格は違えど共通して「はっきり物を言う」タイプの人間です。そのせいか、死の真相を探るというお話でありながら血生臭くない、爽やかささえ残る、不思議なお話でした。

 最後まで謎が謎を呼び続ける、不思議な一夜の物語。

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058「月曜日の水玉模様」

加納朋子/集英社文庫


 満員の通勤電車の中。丸の内に勤めるOL片桐陶子は、3着のスーツと5本のネクタイを曜日ごとに着まわす男、萩と知り合う。毎朝、同じ電車に乗り合わせるだけの彼。その彼が、なんとビル荒しの容疑者として陶子の前に現れた。

 無事に疑いも晴れ、やがて意気投合した二人は、いつしか身近に起きるさまざまな謎を解決する名コンビとして活躍することになる。

 ビル荒らしの犯人の意外な依頼、病院でもらってきた薬に書かれていた別人の名前、この世で1番正確に1メートルを測れる人間、興味本位で尾行した見ず知らずの男の意外な告白。

 刑事も探偵も登場しない、日常の中で起きた謎を解き明かしていく、7編が収録された連作短編集。

 加納朋子さんの描く物語は、いつも「謎」に関わる「人」が丁寧に描かれています。結末で解き明かされる「謎」は物語のスパイスであって、メインディッシュにあるのはいつだって「人」の物語。

 今回の主人公は、丸の内のOLである片桐陶子。
 行動力と知性をかねそろえたストイックな性格の女性ですが、事務職としての立場や、仕事のやりきれなさをなんとか割り切ろうとしていて、けしてスーパーヒロインではありません。

 そして相棒役の荻も、少し頼りないながらも、実はしっかり物事を考えていて、(男性なら)思わず同情したり応援したくなる、愛すべきキャラクターです。

 このストイックな強気の女性と、少し頼りない男性というおかしなコンビネーション、彼らの行く末も気になりますが、この仕事の関係を逸脱した2人の言葉が、「謎」が解けていく中で見えてくる「心の闇」の部分を、優しく包んでくれるようでした。

 日々、雑多な仕事に翻弄される毎日。そんな中で、彼女なりに見つけていく新しい世界の見方。それが「謎」と融合して、1話読み終えるごとに、なんともいえないほろ苦さや愛しさを感じます。

 解き明かされた謎と、割り切れない事実の、ほろ苦ミステリー。
 

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059 「レインレイン・ボウ」

加納朋子/集英社

 高校卒業から7年。
 かつてのチームメイトの訃報に集まった仲間たち。
 9人しかいなかったソフトボールチーム、集まったのは7人。
 この世を去った彼女を、一番慕っていた1人が失踪していたのだ。
 
 チームメイトの死が、それぞれの人生に投げかける波紋。しだいに明らかになる、彼女の死にまつわる謎のいくつか。
 
 そして7人それぞれの視点で描かれる、7年間に起きた7色の物語と、未来へと続く7つの時。
 
 十人十色という言葉の通り、まったく同じ出来事でも、人それぞれの感想があり、解釈があり、結論があります。それが、まったく一致することは、かぎりなくゼロに近いのかもしれません。

 本書では、高校時代のチームメイトの早すぎる死と、その彼女を一番慕っていたチームメイトの失踪を軸にして、7人に広がっていく波紋を追いかけた連作短編集です。

 各編の中で明かされていく謎の真相は、最後にぴたりと合わさります。全ての謎が解けた後、少し痛いせつなさと、未来へと続いていく爽やかさ希望が入り混じった感じがしました。

 この物語、最後を締めくくる重要な役割を握るのは、丸の内に勤めるOL片桐陶子。「月曜日の水玉模様」の主人公です。

 彼女がソフトボール部のキャプテンであったことや、陶子自身にまつわる過去は「月曜日の水玉模様」の中で語られているので、先にそちらを読むと、より深く意味がわかります。(物語としては、それぞれ独立しています)

 面白いのは、他のチームメイトの視点を借りて、いっそう陶子のキャラクターが深く掘り下げられていくところでしょうか。

 誰かの目に映る、この世界は、どんな色をしているのだろう
 知ることができなくても、知りたいと思う。
 そんなことを思わせる一冊でした。

 7人7色の物語。

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060 「花の寝床」

松本侑子/集英社文庫

 夫と別れて2年。30を過ぎた私は、同じマンションに住む一人の少年と出会う。ひとまわり年下の少年、彼を自分の部屋へ誘ったのは私の方だった。終わるとわかっていながらも、求めてしまう少年とのはかなく切ない恋の行方は。――「花の寝床」

 先の見えた結婚を捨てた私は、仲のいい女友達の結婚を本当に祝福していた。その女友達への愛を、心の奥に秘めながら――「防波堤」

 女の見る、女の世界が描かれた恋愛短編集、全5篇。既婚女性と男友達には、薦めていいのか悩んでしまう一冊でした。

 女性によって描かれる女性の世界。けして知ることのない世界も、こうして間接的に(多分にフィクションを含むとしても)知ることができるのが、物語の面白いところでしょう。

 全編を通じて、思わず「これ、男が読んでいいのか?」と思わせる妖しい空気が流れています。男が描くエロスとは別物の、異質で濃密なエロスに、めまいがしそうでした。

 新鮮で驚異で、恐怖。
 なんて男って単純な生き物なんだろう。
 そして、男でよかった、と胸をなでおろしたくなりました。

 女と少年、妊婦と中年、少女と老画家といった、作品に登場する「男」にも注目です。

 「女」の目で客観的に評価される男社会と、「男という結束の中からはじかれた」男の姿が、ストーリーの重要な鍵の部分で登場するので、そのへんも見逃せません。

 妖しい大人たちの、どこかピュアな恋物語。

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