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041-050

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041「エバーグリーン」

豊島ミホ/双葉文庫

 10年後、夢をかなえてここで会おう。
 ミュージシャンを夢見るシンと漫画家を目指すアヤコは、中学校を卒業した日、そんな再会の約束をする。

 それから10年。
 毎日の生活に追われながらも、2人はあの日の約束を忘れずにいた。
 そして2人は、自分の夢と現実について、もう1度真剣に見つめなおしていく……。

 クラスの中ではほとんど目立たない、内向的なアヤコ。
 つい自己中心的な態度をとってしまう不器用なシン。
 接点のない二人が、ある事件をキッカケに仲良くなるのですが、恋愛関係ではなく、友達とも少し違う、変わった信頼関係を築いていきます。

 アヤコはシンに対して、何か特別な存在としての憧れと期待を抱いていて、シンもそんなアヤコの期待に背中を押され、やがて自分の夢を真剣に考えるようになっていきます。

 物語序盤に描かれる、思春期特有のあのトゲトゲしくも多感な心情、アヤコの勝手な妄想や憧れ、どこか人を見下したようなシンの態度なども、舞台となる雪国の詩情豊かな描写で中和され、すんなりと嫌味なく心の中にはいってきます。

 物語は、シンとアヤコそれぞれの視点で交互に描かれてゆき、約束をするに至った中学時代から、約束の日を間近に控えた10年後へ。お互いに、相手の10年後の姿は知らずにいるのですが、それぞれ勝手な想像をするから、事情を知ってる読者は2人の板ばさみ状態。やきもきをさせられます。

 再会の約束なんて、どうせ覚えてない。
 2人はそう思いながらも、いつしか約束の存在が現実の生活に強い影響を及ぼしていきます。果たして、2人はそれぞれの抱える問題にどんな決着をつけるのか。そして、再会できるのか。

 物語に引っ張られて、一気読み。いつまでも読んでいたいような、そんな心地よくもせつない、青春テイストたっぷり。ああ、こんな物語が読みたかった……と思わせるステキな物語でした。

 かつての自分と今の自分について、もう1度真剣に考えてみたくなる。
 そんな一冊。

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042「TOKYO WAR(前・後)」

押井守/富士見ファンタジア文庫

 ある冬の午後。
 横浜ベイブリッジが所属不明の戦闘機によって爆破され、首都圏に緊張が走る。そしてそれがテロではなく、自衛隊機による爆撃という情報が流れるや、不審と不安から警察と自衛隊は対立を深めていく。

 警視庁特車2課の後藤は、荒川と名乗る自衛隊サイドの人間から接触され、極秘裏に事件の黒幕に迫る。だが、時すでに遅し。事件の首謀者は、各所に幾重もの仕掛けを施していた後だった。
 そして第二、第三の事件が東京を襲う。

 政府は「来たるべき事態」に備えるため、東京に自衛隊を展開。敵の正体も目的もわからないまま、首都圏はまるで戦争でも起きたかのような厳戒態勢になる。

 その姿も意図も見せず、圧倒的な距離で先行する犯人に後藤たちは追いつけるのか。やがて、かつての部下たちも事件へと巻き込まれていく。

 この本は劇場用アニメ「機動警察パトレイバー2 THE MOVIE」のノベライズです。ただし、押井監督本人が書いていることから、単なるノベライズでは終わりません。映画版とはやや設定も異なり、語られていなかったエピソードも追加された、とても贅沢な作品になっています。

 機動警察パトレイバーといえば、OVA、テレビアニメ、漫画、小説などメディアミックスの先駆け的な存在として有名な作品。近未来のレイバーと呼ばれる土木作業機械が稼動する世界で、レイバー犯罪を取り締まる警視庁特車2課第2小隊の活躍(騒動?)を描いた作品です。

 時間軸でいえば、パトレイバーという作品世界でのラストエピソードになるのでしょうか。かつての隊員たちはすでに別の部署に異動になっていて、あの埋立地での日々はもうありません。

 主人公の野明や遊馬たちおなじみの面々のその後や成長、相変わらずのふざけた日常、後藤やしのぶの微妙な駆け引き、レイバー同士の格闘シーンなど、エンターテイメントとしての面白さもたっぷりです。

 内容が内容だけに、ミリタリー好きな人には垂涎ものかもしれませんが、むしろそうでない方にお勧めしたい。できればテレビ版でもいいので、パトレイバー本編を観て世界観を理解した後で、ぜひ読んでほしい。あと映画もぜひ観てほしい。

 作中で語られる戦争と平和についての、含蓄ある深い洞察。
 警察をはじめ巨大組織の持つ欠点と限界。
 当たり前にある平和や日常のもろさ。

 戦争とは何なのか。
 平和とは何なのか。
 答えのない問いがいつまでも脳裏に残る、そんな作品です。

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043「リプレイ」

K・グリムウッド/新潮文庫

 43歳で死亡したジェフは、気がつくと18歳の自分になっていた。
 しかし、記憶と知識は43歳のまま。

 自分はこれからの歴史を全部知っている。ギャンブル、株、歴史を知っているジェフは人生をやり直し、大富豪になる。
 だが、多額の財産を残して、またしても43歳で死亡。そして気がつくとまた18歳の自分になっていた。

 人生を何度もやり直すはめになったジェフの、真のサクセスストーリー。

 もしあの時、こうしていたら。
 そんな後悔の一つや二つ、誰にでもあるはず。
 過去に「もし」はありませんが、この物語は、そんな「もし」を手に入れてしまった男、ジェフの数奇な運命をめぐる物語です。

 ジェフは、やり直しの機会を与えられたのでしょうか?
 しかし、2度も3度も同じ人生をやり直す事になったら?
 成功しても失敗しても、リセットされてしまうメビウスの環。それは、地獄なのかもしれません。

 何度も何度も18歳から43歳を繰り返す主人公の見つけたもの。それは、たった1度しか人生を生きられない私たちにとってのヒントだと思いました。その意外な結末も含めて。

 人生とは結果なのでしょうか。
 それとも過程なのでしょうか?
 人生が一度しかない事の「つらさ」と「すばらしさ」の物語。

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044「いちばん初めにあった海」

加納朋子/角川書店

 引越しの準備をしていると、本棚からまったく覚えのない本が一冊。
 それが『いちばん初めにあった海』という小説だった。

「……あなたと同じだから。わたしも人を殺したことがあるから」
 そして、その本には、心当たりのまったくない<YUKI>からの手紙が挟んであった。

 衝撃的な手紙の言葉。
 言い知れない不安と、なにか取り戻そうと焦る心が錯綜する。
 私はいったい何を忘れているの?
 千波(ちなみ)の自己再生の旅がはじまった。

 誰にだって心の傷、忘れてしまいたいほどの痛い記憶があります。でも、そんな記憶と一緒に、本当は大切な何かも一緒に忘れてしまっているのかもしれません。

 そばにいてくれた誰か。
 優しいことば。
 誰かのぬくもり。

 千波の記憶をたどる旅の過程が、自分の記憶をたどる旅へと変わっていきます。
 痛みの中に埋もれた、大切な一粒。
 自分にもそんな一粒があるのではないか?
 それとも、誰かの記憶の中の一粒だったりするのでしょうか?

 辛い記憶だけを忘れる事は難しく、一緒にステキな記憶をも失ってしまうかもしれません。

 今は無理でもいい。いつかそれに立ち向かって、ステキな記憶を取り戻す為に、辛い記憶を受け入れる勇気が必要な時がくる。その時に、この物語はそっと背中を押してくれるような気がしました。

 大切な記憶を取り戻す勇気をくれる、再生の物語。

 ※表題作ほか一篇「化石の樹」もオススメ。

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045「日曜日の夕刊」

重松清/新潮文庫

 最初は几帳面とか、キレイ好きだと言ってくれるけど、そのうち決まってチマチマしてるとか神経質だって嫌われる。そんなチマ男が、7回の失恋を経て出会った運命の女性は、壮絶なるガサ子だったのだが……。 [チマ男とガサ子]

 近所の公園で、娘のさかあがりの練習につきあう父。ふと、自分が幼い頃に出会った「さかあがりの神様」の存在を思い出す……。[さかあがりの神様] 

 少年野球の監督を務める父と、万年補欠で努力家の息子。リトルリーグ最後の試合で、監督と父の狭間で激しく揺れ動く心。その決断と、父が息子に見たものとは。[卒業ホームラン]

 その他「カーネーション」「桜桃忌の恋人」「サマーキャンプへようこそ」「セプテンバー’81」「寂しさ霜降り」「すし、食いねェ」「サンタにお願い」「後藤を待ちながら」「柑橘系パパ」全12篇の短編集。

 特別な場所でも、特別な日でもない。
 どこかの街で、今この瞬間にも起きていそうなごく日常の光景。
 そんな日常を舞台に、心の揺れ動くさまや、ふれあい、すれ違いを描いています。

 あらすじで紹介した「チマ男とガサ子」は、飴の包み紙さえ丁寧に折って捨てるほどのチマ男と、一生懸命努力するのにガサツにしてしまうガサ子の恋愛を描いたものですが、ぐっとくるステキな物語になっています。

 収められた全ての作品にもいえることは、主人公はみな、どこかにいる普通の人で超能力も特別な過去も裏の職業も持っていない、お父さんだったり娘だったりサラリーマンだったりする人たちであるということ。

 そして、ごく日常の風景を、丁寧に掘り下げていく中で、誰もがどこかで共感できるような「心の動き」をくっきりと浮き彫りにし、それが読み手の心をも動かします。
 どれも短編ながら読み応えのある作品で、一篇一篇ゆっくり読みたい本です。

「いつもの毎日の中に埋もれた、大切なこと」
 それを思い出させてくれる一冊でした。

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046「月の砂漠をさばさばと」

北村薫/絵・おーなり由子/新潮文庫

 小学生のさきちゃんは、作家のお母さんと二人暮し。
 なにげない毎日だけれども、二人にとっては大切な毎日。

 子どもからみた親。
 かつての自分を子どもに見ている親。
 淡いタッチのイラストを添え、ごくごく普通のなにげない日常の中に描き出される、優しくてあたたかい12の物語。

 ごく普通のどこにでもある日常なのに、読んでいて楽しい不思議な物語です。ちょっと独特な語り口調もあって、時々ふっと小さく笑ってしまいます。

 でも、子どもらしいさきちゃんの鋭い視線や、お母さんの真剣な娘への気持ちが丁寧に描かれていて、ほのぼのとしながらも、時々、ドキッとさせられます。

 子どもゆえの、核心をついた言葉。
 ついつい振りかざしてしまう大人の都合。
 ごく普通の日常には、そういう「痛み」も含まれています。

 日常の中に、幸せはあるのでしょうか。
 さきちゃんとお母さんは、幸せを見つけて育てるのがとても上手いようです。

 親子の、幸せ発見物語。

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047「星虫」

岩本隆雄/朝日ソノラマ文庫

 宇宙飛行士を夢見る高校生の氷室友美は、ある夜、空から降ってくる無数の光を目撃する。その光は小さな未知の宇宙生物であり、なんと一夜にして世界中の人々の額に寄生してしまった。

 その生物は人間には無害で、それどころか人間の感覚を驚異的に増幅させる作用があり、寄生された多くの人々はその能力に夢中になった。
 もちろん、友美もその例外ではなかった。

 いつしか「星虫」と名づけられたその宇宙生物は、やがて額の上で成長をはじめるのだったが……。

 友美をはじめ、星虫に寄生され五感を増幅された人たちは、異常なほど敏感な状態になります。感受性豊かな人が、ささいなことにひどく傷ついたりするように、世界中の人々が自分たちの世界を、繊細な目で見るようになっていきます。

 世界が急激に転換しはじめ、人々の意識が変わり、やがて自分たちが生きるこの地球という世界にも目を向けていきます。

 環境破壊をすすめる人間。地球にとって人間の存在とはなんなのか。あらためて問われる「地球」と「人間」の関係とはいったい何なのでしょうか。
 環境問題が話題にあがる今、本書はある一つの解答を示します。

 人類に下した決断。
 友美の下した決断。
 そして、友美の得た回答とは。

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048「スクランブル」

若竹七海/集英社文庫

 ある女子高で、一人の少女が殺された。
 しかし犯人は捕まらず、そして15年が経った。

 友人の結婚式に出席した当時の女子高の仲間たちは、過ぎ去った高校時代を振り返りながら、やがて忘れもしないその殺人事件の真犯人にたどりついてしまうのだったが……。

 15年前に起きたある女子高での殺人事件。
 同級生の結婚式に集まって、当時をふりかえる仲間たちの会話。
 この物語は、これら2つのパートが繰り返されて進んでいきます。

 次第に明かされていく謎。
 お互いの持つ、当時の記憶をつなぎ合わせていく中で、とうとう真相にたどりついてしまう仲間達。
 少しづつ情報が明かされ、謎も次第に解けていくように構成された、読み応えたっぷりの推理小説です。

 しかしそれ以上に、女子高生たちの心の機微や、微妙な人間関係などを丁寧に描いた、奥行きのある青春物語でもあります。

 未来に夢みたり絶望したりを繰り返す学生時代に、突きつけられた同世代の「死」。それも殺人という、誰から与えられた「死」のやりきれなさを、女子高生のまっすぐな視線で見つめている作品でもあります。 

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049「MAZE」

恩田陸/双葉社

 アジアの遠く西の果て。
 はるか古くから「存在しない場所」あるいは「あり得ぬ場所」と呼ばれている白い建物があった。

 その中は迷路になっていて、これまでに何人もの人間がそこへと入り、そして二度と帰ってこなかった。

 時は流れ、現代。
 主人公の満は、旧友の依頼でそこを訪れることになる。
 彼の使命はただ1つ。
 7日間以内に「人間消失のルール」の見つけだすこと、であった。

 手品は、騙されているとわかっていてそれを楽しむもの。もちろん、タネを見つけてやろうと目をこらしながらも、容易に騙されてしまうものです。でも、騙されたという不快感はそこにはありません。

 本書はそんな作品。
 全編を通じての「人間消失」という謎、そもそも「なぜその謎を解くのか」、「なぜ自分が謎解きをさせられているのか」という謎。
 その他、各所に散りばめられた謎の数々は、タイトル通りに読者を迷路の中へといざないます。

 果たして読者は、迷路から出ることはできるのでしょうか……。

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050「ぶたぶた」

矢崎在美/廣済堂出版(徳間デュアル文庫)

 彼の名は、山崎ぶたぶた。
 正真正銘、ぬいぐるみのぶたである。

 時には人事担当部長、またある時はタクシー運転手だったり、そしてシェフだったりする。そして、その愛らしい鼻をもくもくさせながら、普通に?生活している。

 タオル代わりに使われちゃったり、風に飛ばされたりするけれど、そして本当に間違いなくぬいぐるみなんだけど、ちゃんと生きてる、そんなぶたぶたのお話。

 主人公はぶた。それもぬいぐるみ。
 でも、人間社会でフツーに生きています。

 鼻をもくもく動かして話す彼(?)は、耳がもげれば縫い直し、びしょぬれになれば洗濯バサミで庭に吊るされ、でも一生懸命に(もしかしたら人間よりも)生きている。そして、その姿は、まったく違和感がない。
 
 「普通に生きている」と簡単に書けても、実際には、なかなか難しい事かもしれません。この物語を読んで、ふとそんな感覚にとらわれました。

 「普通である」事、「平凡である」事は、時として敬遠されがちですが、むしろ「普通」や「平凡」といった事が、とても得がたいもののように思えてきます。

 ぶたぶたの生き方は、とても人間?くさく、かっこ悪い事がかっこいいと思わせる生き方で、正直、ぶたぶたがうらやましくなります。かっこ悪く生きる事は、やろうとすればするほど「本当に」かっこ悪くなりかねない。だからって、かっこよくなんてなかなか生きられない。

 じゃあどうすればいい?
 そればっかりは、ぶたぶたも教えてはくれない。だけど、答えはきっとどこかにある。そんな気持ちになるお話でした。

 ※続編「ぶたぶたの休日」「刑事ぶたぶた」「夏の日のぶたぶた」「クリスマスのぶたぶた」(徳間デュアル文庫)

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