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021-030

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021「いつかパラソルの下で」

森絵都/角川文庫

 柏原野々は、25歳の独身女性。異常なほど厳しい父親の元を20歳になるや逃げるようにしてとびだして、今ではアルバイトで生計を立てながら、恋人を見つけては同棲するという不安定な日々を暮らしている。

 そんなある日、父が事故で他界し、野々は衝撃的な事実を知る。あの厳格な父が生前、会社の女性と浮気をしていたというのだ。野々は兄と妹と3人、その真偽を探りはじめ、いつしか厳格だった父のルーツをたどる旅に出ることになる……。

 定職に就かず気ままに職を変える野々。適当で女性関係にいいかげんな兄。父のお気に入りだった堅物の妹。そして病院へ通っていないと落ち着かない母。家族みんなが父親の影響を受け、心や体に問題を抱えながらも、とりあえずそれなりに頑張って生きています。野々が同棲している恋人も含め、登場人物たちはみんな現代を生きる人々を投影したような、重荷を背負った人たち。

 どこかにいそうな人たちと、ありそうな事件。あらすじだけ読めば、お昼のメロドラマかと思うかもしれませんが、この物語はそんなよくある話を語りながら、まったくよくある話にはなりません。予想の斜め上をいくような意外な、でもとても穏やかな曲線を描きながら、思っても見ない結末を迎えます。

 試験やクイズには正解がありますが、日々の生活には正解がありません。でも、それなら、いったいどうすればいいのか。この物語は、その問いに一つの道を指し示してくます。

 ちょっと疲れた大人の為の、優しい物語でした。

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022「掌の中の小鳥」

加納朋子/創元推理文庫

 どこにでも、うまくできない人がいる。
 最初から与えられた条件が同じじゃないから、世の中は不公平にできてるから、だからそんな、なかなか卵を立てられない人のためのスタンドになりたい。

 僕と彼女は偶然出会い、そしてそんな思いで名づけられたバー「エッグスタンド」の常連になった。僕と彼女、老紳士に女性バーテン。そこで語られる日常と、その中にひそむ謎が魅力的な本格ミステリー短編集です。

 ミステリー、それも本格ミステリーといえば、探偵や刑事が登場し、あっと驚くような密室殺人やアリバイトリックが展開される……と思うかもしれません。でも本書には、探偵はおろか刑事も登場しません。殺人事件もおこりません。ただちょっと個性的なカップルと老紳士、バーテンが登場して、世間話をするだけなのです。それでも間違いなくこの物語は、ミステリであり、そして魅力的な謎がいっぱい詰まった恋愛小説でもあります。

 最大の謎とは、人間の心なのでしょう。
 どんなに距離が近くても、相手の心のすべてを知ることはできない。自分自身でさえ、自分の心をもてあますくらいです。同じ色を見ても、その瞳に映る色が相手と同じであるとは限らない。だから、そこに謎がうまれる。

 何度も言ってしまいますが、本書は間違いなく本格的な謎解きミステリです。本文中に隠された様々な伏線、そして人間の心理が作り出す、意外でいて納得のいく結末の数々。語られる謎の一つ一つは、複雑にからまりあう人間の心。そして謎がとけた後で、心のどこかでが優しくなる(またはちょっっぴり痛くなる)ような、そんな謎ばかりでした。

 一瞬でマンションの一室を消してしまった男の話。他人の傘と自分の傘と交換して走り去る女子高生。そして誰にも触れられずに汚された絵。

 日常の中に隠れた小さな謎と、それにまつわる人々の物語です。

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023「ななつのこ」

加納朋子/創元推理文庫

 美しい表紙に惹かれ「ななつのこ」という短編集を手にした、短大生の駒子。内容にもすっかり惚れこんで、駒子は作者「佐伯綾乃」に、生まれて初めてのファンレターを出そうと思い立つ。

 手紙に、最近自分の身の回りで起きた、ちょっと不思議な出来事を綴ったところ、意外にも作者本人から返事が送られてくる。しかもその手紙には、その不思議な出来事についての冴え渡る推理と解答までもが添えられていたのだった。そんな手紙のやりとりで語られる、7つの「なぞ」のお話です。

 駒子と同様、表紙と帯のキャッチフレーズに惹かれて購入した一冊。帯にあった「いつだってどこだって謎はすぐ近くにあったのです」というキャッチフレーズは、まさしく加納朋子さんの著作を通して言えるすてきな言葉です。加納朋子さんの作品については上記「掌の中の小鳥」でも紹介していますが、本作も身近な謎を題材にしたミステリです。

 本書の魅力は、劇中劇ならぬ物語中物語ともいえる「ななつのこ」という物語でしょう。手紙に綴られる、駒子の体験したちょっと不思議な出来事。それが、どこかで「ななつのこ」の中の一篇と結びつきます。そして作者である「佐伯綾乃」は「ななつのこ」からヒントを得て、見事な解答を提示していきます。

 もう一つの魅力は、散りばめられたたくさんの謎。そもそも謎は、駒子の語る謎だけではありません。例えば、その不思議な出来事は、なぜ起きたのか。目のさめるような解答を出す作者「佐伯綾乃」という人物はいったい何者なのか。謎と謎が複雑にからみあい、そして全7編の謎は、最後にはおおきな1つの謎へとたどりつきます。

 まるでジクソーパズルのように、読み終えたときにはじめて1つの大きな物語に纏め上げられるようになっている、そんな物語の構成は実に見事です。

 ※続編「魔法飛行」「スペース」もおススメです!

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024「クラインの壷」

岡嶋二人/講談社文庫

 ゲームの原作を、謎の企業に200万円で売った上杉彰彦。やがて彼は、その原作を元に開発したというヴァーチャルリアリティ・システム「クライン2」のテストプレイを依頼される。それは仮想現実世界でありながら五感すべてを正確にシュミレートするという、画期的なゲームだった。

 彼はアルバイトとして雇われた少女、梨沙と交互にプレイヤーとしてその仮想現実世界へと入り込むことになる。だが、度重なる強制終了や、彰彦にだけ聞こえる謎の声、やがて彰彦の周囲でも不審な出来事が起き始める……。

 まだWindowsもない(MS-DOS時代)、ファミコン最盛期だった1989年に書かれた、ノンストップSFホラー(←勝手に名づけた)です。しかしIT技術が発達した今でもまったく色あせることなく、じゅうぶんな説得力と、ある種の恐怖を持って迫ってくる作品でした。

 謎の企業、秘密裏に行われるテストプレイ、仮想現実、原因不明のバグ、ゲーム中に聞こえる謎の声……さまざまな伏線がやがて一つになり、物語はとんでもない方向へと展開していきます。あまり書くとネタバレになりそうなのでこのへんで。

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025「光の帝国 〜常野物語〜」

恩田陸/集英社文庫

 「常野(とこの)」と呼ばれる土地があった。

 そこには優しく穏やかで、権力志向を持たない人々が住んでいた。彼らは人にはない不思議な力を持っていた。遠くの地を見る事ができる者。近い将来が見える者。決して忘れない記憶力を持つ者。

 やがて時が流れ、群れることを止めて各地に散った常野の人々が、再び何かに導かれるようにして集まりはじめる。何かが起こり始めていた。そんな常野の人々を描いた、壮大で切ない連作短編集。 

 物語は「どこから」始まり、「どこまで」語られるのか。どんなに魅力的な主人公であっても、生い立ちから老後まで延々と描くのではおもしろくありません。どの部分を描くか、という点が物語の魅力を左右するひとつでしょう。

 この物語は、それぞれ短編でありながら、大きな大きな物語のそのほんの一角を削り取ったような、まるで「物語の始まり」だけを描いたようにも読めます。短編それぞれが、壮大な物語の「序章」ともいえる内容になっているのです。まるで「始まり」だけがそこにあるかのようにも思えてきます。

 常野の人々は、確かに超能力といわれるチカラを持っていますが、それを駆使して悪と激しく戦ったりするわけではありません。むしろ力を持って生まれてきた故の悲哀、そして勇気と生きる力に満ちあふれています。

 この後、彼らはどうなっていくのでしょうか。「はじまった物語」は読者の中へと続いていき、楽しい空想は果てしなく続きそうな、そんな物語です。

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026「サマータイム」

佐藤多佳子/新潮文庫

 伊山進、11歳。姉の佳奈は12歳。
 夏のある日、進は、どしゃ降りの雨が降るプールで年上の少年、広一と出会う。左腕と父親を失いながら、クールで大人びている彼にやがて強く惹かれていく姉と弟。しかし、やがて夏が終わり、広一は姉弟の前を去ってしまった。

 表題作「サマータイム」の他、佳奈の幼い頃を描いた「五月の道しるべ」、十六歳になった広一が当時を思い返す「九月の雨」、そして佳奈の広一への想いを描く「ホワイトピアノ」の4編。

 夏という季節は、他の季節と何かが違うように思います。
 それは、春も秋も冬も、前の季節からバトンタッチされ、また次の季節へ、というようにゆるやかに移り変わっていくのに、夏だけははっきりとピリオドを打って終わってしまうから、でしょうか。特に子供の頃の夏は、他と区切られた特別な時間だったように思います。

 表題作「サマータイム」は進の視線で描かれていますが、「五月の道しるべ」では姉の佳奈の幼い頃、「九月の雨」では十六歳になった広一が、それぞれあの夏をふりかえり、「ホワイトピアノ」ではあの夏のすぐ後の、佳奈の広一への想いが描かれています。

 まぶしくて切なくて、ゆっくりと時間が流れていく、そんな物語。

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027「精霊の橋」

星川淳/幻冬舎

 一枚の絵に不思議なインスピレーションを感じたユキは、突然会社を辞めてアラスカへと旅立った。導かれるようにしてネイティブインディアンの女性と出会い、彼女と共に行う不思議な儀式の中で、ユキははるか太古の昔、ユーラシア大陸と北アメリカをつなぐ<陸のかけ橋>ベーリンジアをめぐる、少女ユカナたちの壮大な物語を<夢見>するのだった。

 遠い過去から語られる、何世代にも渡る長く果てしないベーリンジアを越える旅の物語は、現代に生きるユキにいったい何を物語っているのか。そして少女ユカナの旅の行方は。

 太古の昔。氷河期には、ユーラシア大陸と北アメリカ大陸はベーリンジア海峡で陸続きになっていたそうです。一説によると、日本人の祖先でもあるモンゴロイドが、ベーリンジアを渡っていったと言われていますが、きちんとした船さえない時代に、唯一自分たちの足だけを頼りにしてはるか新天地を求めて旅をしていた太古の人々は、いったいどんな想いで旅をしていたのでしょうか。そう想いを馳せると、ちょっとワクワクしてきます。

 きっと私たちが想像もできないほど過酷な旅であったはずです。だからこそ、そこには生きることへの執着というか、凄まじいまでの生命力を感じます。そうやって人類が新天地を求めて旅を続けていった結果、人類はいろんな土地に散らばり、種としての多様性を手に入れたのでしょう。はたして、そんな旅の数々は、彼らの好奇心だったのでしょうか、それとも生命としての本能だったのでしょうか。

 本書は、古代の少女ユカナの壮大な旅と、それを<夢見>する現代の女性ユキの二人を、シャーマニズムの世界観が橋渡しをするようにして描きだす、何世代にも渡る歴史の物語です。出会いと別れ、その繰り返しによって歴史が作られていく過程は、自分もまた大きな流れの中の歯車なのだいうことを感じさせます。

 みんな大きな流れの中に生きていて、誰もその意味なんてわからない。生きる意味という世界観から、早く脱出すべきなのかもしれません。意味なんてものは、後世の人間によって後付されるものに過ぎないのですから。

 それでは、私たちはどうやって生きていけばいいのでしょう?
 その答えが、二人の主人公ユカナとユキ、そしてその後何世代にも渡るベーリンジアを渡る旅の中にあったように思いました。

 クヨクヨと悩んでしまったとき、宇宙の広さや自分のちっぽけさを考えるとほっとする。この本を読んで、それに似た気持ちになりました。

 いくつもの強い意志が織りなす、壮大な歴史の物語です。 

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028「晴れた日は図書館へいこう」

作:緑川聖司 絵:宮嶋康子/小峰書店

 学校の先生は、雨の日には読書しなさいなんて言うけど、雨の日だけじゃ、とても読みきれない! だって、面白そうな本がいっぱいあるから。

 茅野しおり、小学5年生。本を読むのが大好きで、いつも図書館へ立ち寄ってはいろんな本を借りていくのが楽しみな女の子。そこで彼女は図書館をめぐるさまざまな「なぞ」と出会います。 

 小さい子が、図書館の本を「わたしの本」と言う理由。返却ポストの本が、水に濡らされた理由。そして図書館から消えてしまった本の行方。図書館で出会う人々と本をめぐる、「なぞ」と「こころ」の物語。

 なによりタイトルで、なんの迷いもなく選んでしまった一冊です。しかも図書館で。

 児童書だけに、テンポはあくまで軽く読みやすいですが、軽いのはそれだけ。中味は想像以上にぎっしりでした。提示される魅力的な謎、また身近な登場人物たちによって、ぐいぐいと物語へ引き込まれていきます。ワクワクしながらページをめくってしまいました。 

 分類としては児童書ですが、一般の棚にもぜひ置いて欲しい。変な話、児童書「だけ」においておくのはもったいない。そんな事を思ってしまった一冊です。 

 主人公は、母子家庭に育つ小学5年生の女の子、しおり。出版社に勤める母、司書をしているいとこのお姉さんや、図書館なんて行った事のない同級生の男の子など様々な登場人物とともに、図書館をめぐるいろいろな謎に頭をひねらせます。

 魅力的なのは、人物や謎だけではなく謎が解けた後に見えてくる人の心。そのへん、子供向けだと甘くみるなかれ、です。この物語、いろいろな事から逃げず、真正面から受け止めています。

 最近の事情を反映しているのでしょうか、主人公が離婚による母子家庭なことからしても、そのへんが伺われます。子どもの視点、そして大人の視点もあわせて、人のいい面やわるい面、そして醜い面などもきちんと描かれています。児童書として、そしてなにより物語としての奥行きがあります。

 その他、図書館利用に関するマナーや、トラブル、リファレンスサービスなど図書館での日常についても、司書である従姉の意見を通じてきちんと説明がされていきます。図書館を利用する子どもたちにとって(もちろん大人にも)考えるいいキッカケとなる本でもあると思いました。

 物語のあちこちに、本好きなら思わずニヤリとしてしまうような場面もあって、読んでいて、うんうんと思わずうなずいてしまいました。この本、僕がそうだったように、図書館や本が好きな人なら思わずタイトルに誘われて手に取ることでしょう。でも図書館には普段来ないような人にも、ぜひ読んでほしいと思ってしまいました。

 図書館が、そして本がますます好きになる一冊です。

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029「美しい雲の国」

松本侑子/集英社文庫

 緑豊かな山々と稲田が美しい神話の里、出雲。
 10歳の夏休みに、美雲(みくも)は東京からやってきたという少年、つよしと出会う。

 これって初恋なのかな?
 一目でつよしを好きになってしまった美雲は、あれこれ誘ってはつよしと一緒の夏を過ごす。
 虫採り。自転車の練習。夕日に輝く海。 
 豊かな自然に恵まれた出雲を舞台に描かれる、淡く切なく、そして爽やかな初恋物語。

 この作品には、単なる初恋物語では終わらない魅力があります。
 物語は、大人である美雲が10歳の夏の思い出を夢に見る、という回想の形をとって語られるのですが、最後まで読み終えることで、今読み終えた物語が新しい意味を持ってくるような仕組みにもなっています。なんだかよくわからないと思いますが、これから読まれる方が非常につまらくなるかもしれないので、詳しくは書きません。

 この作品、読んでいる最中から、ずっと懐かしい気持ちでいっぱいになっていきました。でもよく考えると、これはちょっと変です。僕は出雲には住んだことも、行ったこともありませんし、似たような緑豊かな土地で生まれ育ったわけでもありません。おまけに、主人公は女の子。それなのに、いつしか美雲と自分が一体になってしまったかのような感覚にさえなりました。

 それはおそらく物語の持つ魅力、例えば描かれる風景の色鮮やかさであり、登場人物の存在感であり、回想の形をとる独特の文体にあるのでしょう。誰の中にもあるはずの、子ども時代の記憶と、自然と結びついてしまうのかもしれません。そして読後に、自分の中に10歳の子どもが甦っていることに気づきます。

 緑豊かな出雲の夏を背景に、童話に出てくる10歳の女の子ではない、生々しい10歳の少女の姿がすごく鮮やかでした。

 子ども時代を取り戻したい大人の為の、初恋物語。

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030「ひとめあなたに・・・」

新井素子/角川文庫

 最近、恋人の様子がおかしい。
 やっと出会えた、あたしの半分なのに。

 訳がわからず、悩んでいたところになんと最悪のニュースが。
 なんと、地球破滅まであと一週間。

 なんとかして、彼に逢いたい。絶望と狂気に包まれた街を歩き、あたしは彼に逢いに行く! 正気と狂気の境目を綱渡りしながら、江古田から鎌倉までの長い旅が始まった!

 正気と狂気の境目はあいまいで、実はちょっとした差でしかない。残酷なシーンよりも、むしろそのあいまいさの中にある恐怖の方がずっと怖いのかもしれません。そして、そんな恐怖は、なぜか笑いのすぐ隣にもあるようにも思いました。

 世界の終末があっけなく提示された世界。恋人に会いたい一心で、主人公の少女は、残りのわずかな時間をかけて、その正気と狂気のあいまいな世界を歩いて行きます。

 そこで描かれる正気と狂気のちょっとしたズレが恐い。独特の文体で、コミカルな感じを残しながらも、それが逆に非日常の風景を際立たせてもいます。

 一歩間違えば、そこは狂気の世界。
 それでも、これは恋愛小説だったりするので、あなどれない。
 世界の終末、正気と狂気の間で繰り広げられる恋愛ホラー小説。

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